「 合議制 」では良いものは生まれない

先日,あるセミナーで講師の方が『 「合議制」では良いものは生まれない。 』と言われていました。正に今まで私が実感していた事でしたので,目から鱗の言葉でした。

マンション業界でこの『 「合議制」では良いものは生まれない。 』の一番顕著な例は,事業主が1社ではなく数社参入したジョイントベンチャー( JV )物件です。

私は過去に事業主がJVであるマンションの設計・監理を10数物件経験致しました。
その経験をふまえた上で,JV物件が如何にイマイチで有るかを具体的に御説明致します。

JV物件は大抵は,大型物件で総戸数300戸以上のマンションに多いのです。大型物件はリスクが大きいので事業者を複数集め「 赤信号,みんなで渡れば怖くない 」的な発想でリスク分散をしているのです。そして数社の事業主の出資比率に依ってヒエラルキー( 段階的組織構造 )が決定し,通常は出資比率が多い会社が強い発言権をもっています。

事業主がJVの新規分譲マンションでの商品企画会議では物件の方向性が中々決定致しません。事業主各社の価値観の違いがそこでモロにぶつかり結局は出資比率が多い会社の意見を採用し,コンセンサス( 合意 )を得る事になります。たまに出資比率が少ない事業主の意見が通りコンセンサスを得る事もありますが,まれです。

商品企画段階を終え,基本計画段階に入りますと,JV物件の質は出資比率の多い事業主の会社の価値観の傾向が更に強くなります。しかし,JVメンバー各社の建築担当者が自社の価値観で色々な提案をして金がかからない良い提案であれば採用されます。たまに的外れな商品企画会議で決定した「 コンセプト 」とは相容れない配棟や住戸プランの提案まで出してきて呆れてしまう事があります。

これら,マチマチの提案や意見を「 合議制 」でなんとかまとめるのが大変です。結局は足して2か3で割った様な中途半端な内容で決定されるのがほとんどです。理由はJV各社の担当者が会社に持ち帰って上司に報告し,容認( 承認 )してもらう為なのです。この様な物作りを致しますと各々の事業主が培った良い特徴がJV物件には反映されなくなるのです。

JV物件では,設計事務所は出資比率の多い会社に選ばれ設計・監理業務を委託されます。出資比率の高い会社と事前に打ち合わせをし,基本計画案のプランを作成して最初のJV全体会議でプレゼンテーションを致します。私の経験では,最初に提出した基本計画案が第1回目のJV全体会議で了解を得た事はほとんど有りませんでした。

一例を挙げれば,最初の基本計画では「 センターイン型 」( 住戸の奥行き方向の中央が住戸玄関になっているタイプ )住戸でまとめたものを,JVのある会社の建築担当者が了解致してくれません。理由は工事費が割高になるので当社では「 田の字型 」住戸しか採用しないので「 田の字型 」住戸で計画し直して欲しいと言われた事です。この場合,出資比率の高い会社と事前打ち合わせし,コンセプトに基づいたプランなので,出資比率の高い会社の担当責任者が信念を曲げずに通してくれますと,やり易いのですが,大抵の場合はJV各社に工事費の点で突っ込まれて「 田の字型 」住戸プランに計画をやり直す事が多々生じました。

私はその様な場合にJV全体会議で生意気に「 工事費を1円でも安くするのも大切ですが,その事に依って同業他社物件内容との差別化ができずに売れ残った方が,大変なのではないですか…? 」と発言致します。設計者としてはかなり自信と勇気の必要な発言ですが…。

私のこの発言で出資比率の高い会社と事前に打ち合わせて作製した基本計画が通った事が数回有ります。自慢ではないですが,その様な物件は全て竣工までに完売致しました。

JV物件の実施設計会議でも,設計内容の件は二の次になり,ほとんどが工事費縮小の提案合戦をし「 合議制 」に依りJV全社のコンセンサスを得るので中々良い計画を設計し,実現する事が出来ません。

私は「 購入相談 」や「 現地同行 」チェックの依頼がきました時はまず検討物件のHPの物件概要をチェック致します。検討依頼物件がJV物件の場合,JVのメンバーを見て出資比率の高い事業主があまり評判の良くない会社ですと,理由をメールで依頼者に説明をし,その物件はお奨め致しません。

ですので,今まで世間で評価の高い物件を供給している優秀な事業主が1社で事業化している,50戸~100戸程度の分譲マンションを選んだ方が,その会社の良い価値観や個性がマンションの隅々にまで反映されていまして良いと思います。

JV物件は事業主数社の「 合議制 」で計画や事業化をしていきますので,上記の様に「 合議制 」では良いものは生まれない事が多いのです。

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