潔い売主

今回,お話致しますのは約5ヶ月前頃に行なった「内覧会同行」チェックでの話しです。
もう,5ヶ月も経っていますので,当該物件にも影響がかからないと思いましたので,皆様に売主の対応が良かった事を御報告致します。

私の「内覧会同行」チェックは,現地内覧会チェック開始時刻の1時間前に依頼者に御会いして「物件資料一式」「重要事項説明書」等や購入契約後に送られてきた変更事項が書いてある書類に目を通し,ざっとチェック致します。

今回の内覧会同行依頼物件の「メインパンフレット」を見ましたら後の方のページに『全ての外壁は鉄筋コンクリート造で「鉄筋のコンクリートかぶり厚さは5センチ確保」』と図入り(カラー)で書いてありました。それを見て私は内覧会依頼者に「良い買い物をしましたね。」とお伝えしました。

処が依頼者の住戸の内覧会チェックを行いましたら,上記の通りに施工されていなかったのです。

具体的に御説明致しますと,リビング・ダイニングの「掃出し窓」(外部に人が出入りできる大型の窓)の脇の壁に直径15センチの「吸気口」が設置されておりまして,その吸気口穴の端から窓枠まで10センチしか離れていなかったのです。

その寸法を測っていた時に依頼者の奥様が「この部分はカーテンを開けた時のカーテン溜りの場所でしょ。大きな窓のカーテン溜りの幅は15センチ以上必要と碓井さんが何かで書いていましたよね。」と言われました。

更にその奥様は「カーテンを開いてバンドで止めておくと,カーテンの裏側から24時間換気で常に外気が入ってきてカーテンが汚れますし,吸気の効率も悪いのではないですか?」
と私に質問されました。「その通りです。」と私は答えました。

その質問を受けて,私は売主の販売担当者とゼネコンにこの事を指摘して「是正指摘事項」として修正工事をする様に申し伝えました。彼等の回答は「モデルルーム通りですので修正工事は致しません。」とのよく有る言い訳でした。

早速,私は依頼者御夫妻と打ち合わせをしましたら,奥様は「他の指摘事項は我慢できますが,この点だけは絶対に譲れません。この吸気口の穴の移動を了承しないのであれば再内覧は致しませんし,最終代金も払いません。この住戸の引渡しには応じません。」と言われました。

私は依頼者に1週間以内に本物件の売主の責任者,設計の責任者とゼネコンの責任者に来てもらい折衝する様に進言し,売主の担当者に申し伝えました。

1週間後,依頼者御夫妻と私はマンションへ行く事前に奥様に「売主が修正工事を拒否した場合はどうしますか?」と聞きましたら即座に「解約を致します。」とお答えになりました。

それを聞き私は「こちらから解約を申し出たら手付金放棄になる可能性がありますよ。」と説明致しましたら,また即座に「修正工事を行ってくれなかったらこのマンションには住みたくないですから手付金放棄は覚悟しています。」との回答でした。それを確認致しましてからマンションへ折衝をしに行きました。

マンションの集会室に行きましたら,びっくり致しました。なんと売主の社長が来ていたのです。名の知れた有名な中堅デベロッパーの社長です。あとの出席者は設計事務所は担当者のみでゼネコンはこの物件の現場所長のみでした。

早速,私は依頼者の要望という事で本題の「是正指摘事項」の件の説明をして「修正工事をして下さい。」と彼等に依頼致しましたら,設計事務所,ゼネコン共に「共用部分の修正は出来ない。モデルルームと同じである。」との回答でした。

そこで,私はこの物件のメインパンフレットをひろげて『全ての外壁は鉄筋コンクリート造で「鉄筋のコンクリートかぶり厚さは5センチ確保」』と書いてある所を見せ「窓枠より吸気口の穴が10センチですから,厳格に言えばこの表示は不当表示で宅建業法に触れるのではないですか?」と言い返しました。

更にその理由として「ここの部分のコンクリート壁の実際の幅はサッシュ設置の為の隙間寸法をマイナス致しますと約5センチ程度しか有りません。その5センチ幅の中に直径1センチの鉄筋が入っています。ですのでこの部分では鉄筋のコンクリートかぶり厚さは絶対に5センチは確保出来ませんね。」と簡単なスケッチを書いて解説致しました。

そうしましたら,この遣り取りを黙ってじっと聞いていました売主の社長さんが内覧会依頼者(購入者)に「この件の修正工事はおおごとでできませんのでキャンセルさせて戴いて良いですか?手付金と手付金の同額(手付金の倍返し)をお支払いいたしますが…。」と申し出たのです。

それを聞いて内覧会依頼者の奥様は即座に「解約致します。」と言いました。売主の社長は付き添いの社員にレポート用紙を持ってこさせ,直ぐに解約に応じて手付金の倍返しをする旨の「誓約書」をその場で書いてサインしたのです。

私の長年の経験の中で,この様に潔い売主の社長に御会いしたのは初めてで驚きました。

この様に,購入者側の正当な理論を素直に受け入れる売主であって欲しいものです。

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